今回は、人の感じる不安という感情とも深く関わりのある、恐怖や怒りなどの本能的な情動をつかさどる脳部位のお話をさせていただきます。

人間の脳の中で最も大きな領域、約80%を占めるといわれる「大脳」は、大脳の内側に位置している「大脳辺縁系」と、大脳の表面側に位置する「大脳皮質」という2つの部分で構成されています。

ここではまず、「大脳辺縁系」の仕組みと、働きから見ていきたいと思います。

大脳辺縁系


大脳辺縁系は、海馬、脳弓、歯状回、嗅球、梨状葉、帯状回、海馬回、扁桃体、中隔、乳頭体などからなり、それらの総称を大脳辺縁系と呼びます。

これらは、脳幹にある「視床下部」と密接に連携しながら、記憶の形成や、怒り・喜び・悲しみ・不安・好き・嫌いなどの情動を主に担っています。

それぞれの主な部位の働きを、簡単にお話させていただきます。


まずは、タツノオトシゴのような形状をしていることで、その名がつけられたという「海馬」。

「海馬」は、経験によって得られた情報を「記憶」を一時保存する機能をもっています。

「海馬」が記憶する情報は、あくまで一時的な記憶で、それらの記憶は整理され、必要であれば大脳新皮質などの適切な場所に「長期記憶」として保存されます。

また、その長期記憶として保存されたものが、必要なときに引き出すときも、「海馬」を通して引き出されることになります。


つぎに、その「海馬」の先端にある「扁桃体」。

アーモンドの形状に似ていることから、アーモンドの別称「扁桃」から名づけられたといいます。

「扁桃体」は、人間の情動と深く関与し、海馬からの記憶情報をまとめて、それが快か不快か、好きか嫌いかを判断を下す役割をしています。

また、恐怖や不安、怒りなどの感情にも大きく関わる部位になります。たとえば、山の中でクマなどに出会ったき、「ヤバい、はやく逃げなきゃ!!」という、瞬時に危険を察知し、こうした感情を呼び起こせるのも扁桃体が大きく関与しています。


その他、「帯状回」は、行動の意欲や動機づけ、また行動の抑制に関係しているといわれています。

「嗅球」は、嗅覚系の一時中枢として機能しています。
(五感と言われるもので、視覚・聴覚・触覚・味覚は脳の視床という部位を通って、大脳皮質にいくのですが、嗅覚だけが大脳辺縁系に直接作用します)


このように大脳辺縁系は、快か不快か、好きか嫌いかというものを判断し、快(好き)と判断した場合には、行動の意欲を起こし、不快(嫌い)と判断した場合は、それを避けるための信号を発するという、そういった単純明快な、本能的な情動、動物としての原始的な行動の源となっています。